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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)23号 判決

主文

本件上告は孰れも之を棄却する。

理由

被告人両名の辯護人中江一也上告趣意書第二點は「本件上告申立人等ハ廣島高等裁判所デ昭和二十二年十月二十九日二年半ノ懲役ノ判決ヲ受ケタモノデスガソノ後十一月十五日カラ施行サレタ「刑法ノ一部ヲ改正スル法律」(昭和二十二年法律第百二十四號)ニヨルト三年以下ノ懲役ニ付テモ執行猶豫ヲ言渡スコトガ出來ルヨウニナリマシタ從ツテ若シ上告申立人等ガ右改正法施行後判決ヲウケタナラ必ズヤ右ノ改正サレタ刑事訴訟法第二十五條ノ規定ヲ適用サレ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケタモノト信ジルモノデアリマス蓋シ上告申立人等ハ皆ソノ職業柄ニ似ズ前科モナク過グル戦時中ハ軍人又ハ軍屬トシテ多年ニワタリ奉公ノ誠ヲ盡シタ者デアル上ニ保釋後ハ當主人西山寛ノ監督ト庇護ノ下ニ真面目ニ労働シテヰルノデアリマス斯樣ナ平素真面目ナ間ガ犯シタ醉餘ノ悪戯トモ言フ可キ事案ニ對シ原審裁判所ハ各二年半ノ懲役ヲ科シタノデアリマスガソノ判決當時タル昭和二十二年十月二十九日ニハ既ニ前敍ノ「刑法ノ一部ヲ改正スル法律」ハ公布サレテヰタノデアリ(昭和二十二年十月二十六日公布)而モコノ改正ノ理由ガ新憲法ノ施行ニ伴フテソノ趣旨ニ副フヨウ刑法ヲ改正スルタメデアツタノデアルカラシテ原審裁判所トシテハ裁判ノ期日ヲ變更シテ「刑法ノ一部ヲ改正スル法律」ノ施行ヲ待チソノ改正法律ニヨツテ上告申立人等ヲ審判スルノガ新憲法ノ精神ニ合致スルモノデアルノニ之ヲ敢エテセズ改正刑法公布後之ガ施行迄ノ間ニ改正前ノ刑法ニヨリ審判シタ原審判決ハ日本国憲法ノ精神ニ合致セヌ違憲ノ裁判ト言ハネバナリマセンコノ點ヨリシテモ原判決ハ破毀サル可キモノト思ヒマス」といふにある。

原判決は昭和二十二年法律第百二十四號刑法の一部を改正する法律の公布後その施行までの間に言渡されたものであること及右改正法施行後は三年以下の懲役若しくは禁錮又は五千圓以下の罰金の言渡を受けたときは其の刑の施行を猶豫することが出來ること所論の通りであるが、右刑法の一部を改正する法律の施行が間近であるからといって原裁判所は其の審理の終結又は判決の言渡を右施行後迄延期しなければならないといふことはない。果して然らば原裁判所が右改正法の施行を待たずに原判決を言渡したからといって違法でない。仍って論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

此の裁判は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重)

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